「これからの世界をつくる仲間たちへ」表紙
筑波大学にて教鞭をとりながら、メディアアーティストとしても活躍する落合陽一氏。最近、テレビなどでもよく見かけ、インタビュー記事や実験動画なども拝見したことありましたが、今回はじめてその著書を読んでみました。

魔法(=テクノロジー)をかけられる側ではなく、魔法をかける側の人間になるにはどうしたらいいか。これからの世界を自分が魔術師として生きていくには、何が必要か。
そんな未来を生きるためのヒント、というよりもはや答えが書いてあるのでは、といえるほど刺激的な内容だったため、取り上げてメモしておきたいと思います。

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目次とコンテンツの概要

「これからの世界をつくる仲間たちへ」目次

プロローグ 「魔法をかける人」になるか、「魔法をかけられる人」になるか
第一章 人はやがてロボットとして生きる?
第二章 いまを戦うために知るべき「時代性」
第三章 「天才」ではない、「変態」だ
エピローグ エジソンはメディアアーティストだと思う

本書は、コンピュータと人間の関係性を明らかにしながら、どのような人材がこれからの世界を創っていくことになるかを提示し、そうなるためのキッカケも与えてくれるという内容です。

要は「クリエイティブな人材になれ」ということなのですが、これからの時代に沿ったクリエイティビティを発揮するにはどうしたらいいか、それは何によって育まれるか、そもそもまず何からはじめるべきなのか、といった自分たちにもできる次の行動、一歩を踏み出すためのヒントが書かれている点が特徴です。

コンピュータが人間の仕事を奪ってしまうと囁かれる昨今ですが、奪われるのでなく「コンピュータと人間が相互に補完しあってそれ以前の人類を超えていく時代」を生きるために、必要な知恵をこの本から探ってみたいと思います。

本のボリューム自体は、224ページとサラッと読める分量ですが、中身がめちゃくちゃおもしろく、何度も時間をかけて読み返したくなること必至な模様。

「人」にあって「コンピュータ」にないもの、それは「モチベーション」

コンピュータ、特に人工知能の発達により、これまで人間が担ってきた仕事が代替されていくのは避けられないトレンド。これまで機械・ロボットにより、ブルーカラーの職が奪われていましたが、今やホワイトカラーの仕事もまた、テクノロジーによって奪われ始めています。

書類作成やデータ分析など、ある程度の処理能力でこなすような仕事であれば、あの就活生憧れのコンサルタントも例外ではないとのこと。
確かに、いくら超人とはいえ3日3晩徹夜して出した成果と、電気さえあればいくらでも動き続けるマシーンの成果で差が生じるのは当然です。

であるならばどうすればいいか。まず、コンピュータと人間の違いをはっきりさせることが重要だとし、以下のように語っています。

コンピュータに負けないために持つべきなのは、根性やガッツではありません。コンピュータになくて人間にあるのは、「モチベーション」です
コンピュータには「これがやりたい」という動機がありません。目的を与えれば人間には太刀打ちできないスピードと精度でそれを処理しますが、それは「やりたくてやっている」わけではないでしょう。いまのところ、人間社会をどうしたいか、何を実現したいかといったようなモチベーションは、常に人間の側にある。

「モチベーション」を持つからこそ、人はコンピュータをツールとして扱うことができる。逆に言うと、特に強い「モチベーション」を持たずに仕事をする人は、コンピュータに使われる側になってしまう、ということでもあります。

また、そうした「これが好きだ」「この問題を解決したい」という強烈な興味や好奇心が、その人の専門性を深めるとし、その「専門知識」やその人しかもたない「暗黙知」といったものも、これからの世界で重要な価値になると言っています。

モチベーションや専門分野を見極めるための方法

ただ、モチベーションや専門分野といわれても、どう自分の中から見つけ出せばいいかわからない。むしろそれを見つけられず、しぶしぶ就職先を選んだり、惰性で仕事を続けてしまっていることは多いと思います。

そんな時、落合氏は自分の内側からそれを見つけようとするのでなく、まずは少し見方を変えてみては?と提案します。

大人から「好きなことを見つけろ」「やりたいことを探せ」と言われると、「僕は何が好きなんだろう」と自分の内面に目を向ける人が多いでしょう。そこからいわゆる「自分探しの旅」みたいなものが始まるわけですが、これは袋小路に行き当たってしまうことが少なくありません。
しかし「自分が解決したいと思う小さな問題を探せ」と言われたら、どうでしょう。意識は外の世界に向かうはずです。そうやって探したときに、なぜか自分には気になって仕方がない問題があれば、それが「好きなこと」「やりたいこと」ではないでしょうか。

これ、ほんの些細なことかもしれませんが、確かに自分が持っている関心事って、意識していなくとも自然と情報として入ってきたりするものです。
考えこんでしまうのではなく、意識を外に向け感性に任せながら、今自分は何を考え、何に目が向いていたかを気にしてみると、また違った発見があるのかもしれません。

自分のしたいことが本当に価値あることかを測る5つの問い

ただ、そうしてぼんやりと自分のしたいことが見つけられると、今度はそれをして本当に意味があるのか。実利的な面も踏まえ、それでやっていけるのか、という疑念が湧いてきます。

自分のしたいことを語っていた人も、その社会的価値ややる意義という点を明確にできず、自分の専門としてやっていくか悩んでしまう人もいます。

そこで、自分の専門としてそれを扱う(やりたいことを追求する)価値があるかどうかを見極めるに、有用な5つの問いを提示しています。

それがこちら。

・それによって誰が幸せになるのか。
・なぜいま、その問題なのか。なぜ先人たちはそれができなかったのか。
・過去の何を受け継いでそのアイディアに到達したのか。
・どこに行けばそれができるのか。
・実現のためのスキルはほかの人が到達しにくいものか。

自分のやりたいことで、誰かを幸せにできるか・心を動かせるか。
そのやろうとしていることは、なぜ”いま”できるのか、そしてそのアイディアの源泉は何か。
そして、それを具体化するには、どこに行けばいいのか(物理的なリソースが必要であれば、大企業へ行けば良いし、自分の知識だけでできるのであれば起業家・研究者になるでもよい)。
最後に、それをするためのスキルや専門知識は、他との差別化の要因になるか。

上記5つをまともに答えられるようであれば、そのやりたいことは、有用性を言語化できている=他人や周りの人間にも共有可能な価値として認められる可能性がある、ということです。

独りよがりでなく、自分のやりたいことが本当に価値あることか。結局のところ、それを決めるのは自分ではなく周りの人間だからこそ、それをきっちり説明できる、納得させられるかどうかが重要となってきます。

それを言語化する際のポイントとして、上記は心に留めておき、自問自答しながらアイディアを磨いていくといいのかもしれません。

自分の「やりたい」と思う気持ちを未来の価値に繋げる戦略バイブル

これまで巷では、人の価値としてクリエイティビティが挙げられていましたが、そのクリエイティビティを生み出すのが、個人の「モチベーション」であるという指摘は、ありそうでなかった新鮮な視点だと思います。

また、そのモチベーションである「なにかをしたい・生み出したい」という強い気持ちを、未来における価値とすり合わせながら探る方法は、これからを生きる若者や、それを教える大人たち全員が知っておくべきだなと。

この他にも、未来で活躍するに必要なものとして、「言語化する能力」「論理力」「思考体力」「世界70億人を相手にすること」「経済感覚」「世界は人間が回しているという意識」などがあがっており、書ききれていない処方箋が満載です。

これから何を指針として活動していけばよいか、どう未来を生きたいかを悩んでいる方へ、今年1番のオススメです。