ドナルド・キーン氏
「日本人よりも日本人のことを考え続けてきた」と言われるアメリカ生まれの日本文学研究者、ドナルド・キーン氏。2012年に日本国籍を取得し、日本人として生涯を全うすることを表明しました。

そんなキーン氏の半生を振り返るドキュメンタリー番組より、その中で語られた”日本人らしさ”について着目。日本人以上に日本人であろうとした人物が語るその”らしさ”とは。

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日本文学を世界に伝えることを使命とした半生

幼い頃から本が好きでひたすら読書に励んでいたというキーン氏。大学に飛び級で入学し、ニューヨークのタイムズスクエアで購入した『源氏物語』が元となり、日本への関心を深めていきます。

戦時中、敵に捕まるくらいなら自ら命を絶つ(自決する)という日本兵の行動に疑問を持ち、なぜ1番大切な命を粗末にするのかと、更に日本人の精神性や人間性に興味を移していきます。

戦後は京都大学大学院へ留学。コロンビア大学で名誉教授職を経て再度来日し、60歳の頃、朝日新聞社の客員編集委員として就任。それまでに日本の文豪と呼ばれる三島由紀夫、谷崎潤一郎、川端康成、司馬遼太郎、大江健三郎といった錚々たる顔ぶれとの交友関係を通し、日本文学を世界へ発信する傍ら、日本人の姿を追い求めてきました。

キーン氏の語る日本人の5つの特徴

そんなキーン氏が番組の中で触れた、日本人の5つの特徴が以下になります。

1,曖昧(余情)
2,儚さへの共感
3,礼儀正しい
4,清潔
5,よく働く

この中でも特に言及していたものが、「曖昧(余情)」「儚さへの共感」「清潔」の3点になります。

1つ目の「曖昧(余情)」とは、物語や会話の中で、少ない言葉(比喩や掛け合いを通して)で結論を言わずに本意を伝えようとするコミュニケーションについてです。

物事をはっきりと伝えようとする欧米とは異なり、表現が曖昧で一見わかるづらく聞こえる掛け合いが、かえって互いの信頼関係を築いたり、物語ではどんな意味があるのか、などを想像する(余情を醸し出す)ポイントになっているのだそうな。
日本人の思いやりや繊細さは、こうしたところからきているのではないかとのことです。

2つ目の「儚さへの共感」は、物語における主人公や登場人物のあり方に関係しています。
儚さの中に美を見出す感性は、侘び寂びにも通じる日本人独特の美意識でもあります。忠臣蔵や新選組のように日本人にとっての英雄は、はじめ上手くいっても、最終的にはダメになる、死んでしまうという結末を辿るのがそれです。
マンガで言えば破滅型ヒーロー(全てを出し切り燃え尽きる、仲間を庇ってやられてしまう、など)ということになり、散っていく儚さにも趣があると捉えます。

人間としての弱さ、そこに同情しながらもそれを世の常として受け入れる・共感する感性もまた日本人らしさの所以です。

そして最後の3つ目は「清潔」です。なぜ日本人がきれい好き、身なりが整っているかという問いには、神道が大きく関わっているとのこと。
確かに言われてみれば、初詣やお参りで神前に立つ際は、手水で清めたり身だしなみに気を使うといったことは現在でも当たり前にされています。

特別に宗教を意識せずとも、その一環が自分たちの生活に自然と溶け込み「清潔さ」と結びついているという点は非常に興味深く感じました。

まとめ

こうしたキーン氏のような稀有な立場からの視点は、非常に新鮮で日本人らしさを理解するには貴重な意見だとひしひしと感じました。

グローバル社会が叫ばれる中、英語教育ばかりに焦点が当たりますが、日本人としての価値を世界でどう発揮していくかを考えるには、こうした日本人自身を理解する機会が必ず必要だなと切に感じます。

外国文化に迎合するだけでなく、日本人の価値をどうハイブリッドしていくか。そのためにはもっと日本人が日本(人)のことを理解するという当たり前ができる環境を整えていかねばと思います。

キーン氏の言葉から、少しでも日本人とは?に答えられる解を自分なりにも考えていければと思います。


photo credit:”Donald Keene” by Aurelio Asiain from Hirakata-shi, Osaka, Japan – Flickr photo Donald Keene at his Tokyo home. Licensed under CC 表示-継承 2.0 via ウィキメディア・コモンズ.