ミーティング、仕事
「SWITCHインタビュー 達人達(たち)」視聴メモ。「クラシック界の異端児」とも言われる指揮者・井上道義氏と、日本で初めてバチスタ手術を成功させた須磨久善氏の対談です。

井上氏は、日本で屈指のマエストロでありながら、その指揮は破天荒そのもの。神の手を持つと言われる心臓外科医・須磨氏との対談においても、ユニークで意外性のあるトークを展開します。そして、「チーム・バチスタの栄光」でモデルとなったバチスタ手術の第一人者、須磨久善氏は、命の現場におけるギリギリのやり取りから得た学びを共有。
マエストロとスーパードクターの共通点、考え方とは。

指揮者、医者にとっての素養、仕事とは

SWITCHインタビュー 達人達(たち)「井上道義×須磨久善」 – NHK

スキンヘッドの強烈なキャラクターと型破りな企画力で知られる井上。実は楽団員に一声かけるにも、極めて繊細に気を遣っていると明かす。世界が認めるマエストロのコミュニケーション術とは?いっぽう40か国で5千例、世界初・日本初の心臓外科手術を次々手がけてきた須磨。肉眼では見えないほど細い糸でティッシュペーパー並みにもろい血管を縫うような作業を何万時間と続ける。ぎりぎりの命の現場から見えてくる真実とは?

視聴メモ、まとめ

速く終わる手術がいいのではなく、速く終わったと感じる手術が最もいい
→ 手術はリズム、いいリズムでできるときは結果もいいし、やっている仲間も疲れない

良い手術、良いオペラは無駄がなくてすぐ終わる疲れない

【須磨久善 → 井上道義】
指揮者は言葉を選ぶ
しょうがない失敗だったのか、楽員さんの本当の失敗なのか見極める
相手に言葉を気をつけて言っていると思われるのが1番ダメ
→「言いたい放題言ってるよ」「天衣無縫だね」と思われていることがいい

マエストロ、もしくは医者になるために必要な要素、共通点
→短時間で正確な判断を下して、みんなをそっちに「がっ」と引っ張っていく
→みんなの目の前で「さすが」と思われることをやらなければいけない
その反面、
いくら努力してもこの人はこれにはなれないっていう人はいる

指揮者は役目
→いなくても音はでるが、それではおもしろくない
・ひとつのやり方である方向に行くというのが音楽
→平等で最大公約数のような音楽が一番つまらない
→多少ひずんでいるほうがいいこともある、それが魅力になる

井上道義氏本人について
・舞台が好きだった
→14歳の時、現実は全てウソっぽく感じた(医者も父親もあくまでその役目をやっているだけではないか)
→だったらむしろ大ウソでも舞台の方が人間らしさを感じた
 
指揮者は音楽やるだけでない、プロデューサー、政治家でもなければいけない
→どんな国の人にとっても、作曲家がどこの国で生まれたかはとても重要
→他国の人がそれをやるのは大変

・ある曲の出所と時代というものを、今そこで作られたようにやるのがクラシック音楽の喜び
・時代を越える場所も越える

・僕の本当は舞台にいて舞台で生きているから、その他の時間(飯食っているなど)はどうでもよい

【井上道義 → 須磨久善】
・外科手術の難しいところは人で練習できない、ティッシュペーパーを縫うことで練習した
・目の前に心臓がある、血管を縫い損じたらこの人は死んでしまう、そこでどれだけ平然としてられるか、その状況にどうしたら慣れるかメンタルの問題
いかにはやく克服できるか

・イメージトレーニングがすごく大事

外科医に要求される資質は判断力、正確かつスピーディー
→秒単位で判断していく
→指示してみんなを引っ張っていかなきゃいけない
→それは音楽家の本番と同じ

・そのためには、オプション(こうなったこうするなど選択肢)を自分の引き出しに持っているかどうか

経験とテクニックについて
・外科医はアスリート半分、サイエンティスト半分
→運動能力と経験値がうまく重なったころが旬の外科医(40~50歳代)

・教科書に出てくる手術を正確にできて50点
・残りの50%は、ないところに何かを作り出す
→これまで不可能だったこと、長時間かかったものを、手術出来て治る、そして短時間で安全ですよっていうのがクリエイティブ、そこまでもっていく

失敗があったとしてもそれを背負って次に行かなくてはいけない
・切り替えるにはどうするか?
→切り替えるには料理をする
→料理と手術は似ている(下ごしらえ、煮たり焼いたりの順番があって、その瞬間に段取りができてないと料理できない)
→余計なことを考える暇が無くなるようにする

大きな命に関わる病気であればあるほど乗り越えた時、前の延長の人生ではなくなっている
→おみやげを持って帰ったなと思う
→大事なものを見つけたり、考え方など変わったり、次の人生に向かうような感じがする

まとめ

今回も指揮者と医者ということで、全く異なる分野のセッションでしたが、いくつか興味深い共通点、考え方が出てきたと思います。

両者の仕事に必要な「短時間で正確な判断を下し、みんなをそっちに『がっ』と引っ張っていく」といったリーダーシップは、「みんなの目の前で『さすが』と思われることをやらなければいけない」という実力主義の世界に必須の素養だと感じました。

また、井上氏本人が、昔から舞台が好きで現実はウソだと思っていたというエピソードは、幼い頃から独特の感性を持っていたことを感じさせます。「マエストロになるために何が必要か?」と聞かれた際、すぐに答えられなかったシーンもありましたが、それも生まれ持った感性にひたすら従い突き進んできた結果からと思います。

そうした自分の感性・才能を突き進む人がいる反面、須磨氏の「いくら努力してもこの人はこれにはなれないっていうものはある」という言葉は重く響きました。もちろん医者という仕事が人の命を扱うもので、本人の意志以上に結果が重視される仕事だ、という立場を考慮してのものかもしれません。
ただ、その道のプロ、一流を目指すのであれば、自分に合った仕事なのか、強みを活かせる分野なのかといった点は、自分の意志以上に吟味すべきポイントかとも考えさせられます。

厳しい世界を生き抜いてきたからこそ繰り出される両者の言葉は、平易なものでありながら、しっかりと心に残るものでした。自分も早く一流、プロフェッショナルになれるよう今後を見極めていければと思います。