国際大学GLOCOMの豊福晋平氏によるnote記事『AIなら30秒でできることを、なぜ30分かけてやるのか』が、非常に示唆富みだったのでメモ。

記事の中で特に印象的だったのは、次の2つの指摘。

・「AIによって簡単に代替できるようになった今こそ、課題を課す側にも、子どもの時間を使う理由を説明する責任があります。」

・「私たちが子どもに引き受けさせている苦労のうち、どれが学習に必要な困難で、どれがただの徒労なのか。」

豊福晋平『AIなら30秒でできることを、なぜ30分かけてやるのか』より

学校現場では長年、「苦労して汗を流すこと自体が無条件に素晴らしい」「楽をしてはいけない」という美徳があったかと思います。しかし、子どもが30分かけて穴埋めし、計算し、無難にまとめたレポートを、生成AIはわずか30秒で出力してしまう時代。

「課題を早く終わらせるためにAIを使うのはチートだ」、「自分で苦労しなさい」と叱る大人たちは、果たして「なぜAIなら30秒でできることに、あなたの大切な30分を使わせるのか」を論理的に説明できているのかと。

もし「ルールだから」「テストに出るから」としか答えられないのであれば、それは成長に必要な負荷ではなく、子どもの時間をただ消費させている「徒労」に過ぎないのかもしれない。
そんな豊福氏の話を前半整理させていただき、後半、個人的に浮かんだ今後の教育現場について妄想をお伝えします。

学習の本質は「完了」ではなく「変容」にある

なぜ、従来の学校の課題はこれほど簡単にAIで代替されてしまうのでしょうか。

それは、教育の現場がプロセスそのものよりも、「課題を終わらせたか」「正しいアウトプット(成果物)が出たか」というパフォーマンスの完了ばかりを評価してきたからです。

しかし、本来の「学習」とは、提出物を完成させることではなく、「学習者自身の中に何かしらの変化が起きること」のはずです。

人間が時間をかけて学ぶ価値がある状態とは、具体的には次のような瞬間を指すと豊福氏は言います。

  • 分からなかったことが分かるようになる
  • できなかったことができるようになる
  • 最初に持っていた問いや前提が更新される
  • 他者やAIの視点に出会い、自分の見方が揺さぶられる
  • 試行錯誤や失敗を経て、自分なりの判断基準ができる
  • 一つの経験を通して、別の状況でも応用できる深い理解が形成される

もし、30分かけて課題をやり遂げた後、子ども自身に上記のいずれの変化も起きておらず、ただ「提出枠が埋まっただけ」なのだとしたら、その作業をAIに外注したところで失われる学びは何一つありません。

教育者や学校が問われているのは、「AIを使わせるか禁止するか」の二元論ではなく、「その30分で、子どもの中にどんな変容を起こそうとしているのか」という学習デザインに関する事です。

「テストで点を取る力」と「人間としての能力」の乖離

ここからは、個人的な考えになりますが、
こうした変化は、これからの評価や「入試・選考」のあり方を変えるきっかけになるのではと思っています。

これまで評価されてきた「正解が用意された問いに対して、速く正確に答えを出して高得点を取る力」は、まさにAIが最も得意とする領域。ペーパーテストの点数が高いことと、これからの社会で価値を生み出す力との間に、決定的なズレが生じ始めているのは、皆さんも感じられているかもしれません。

では、これからの選抜や評価は何を見るようになるのか。

おそらく今後の問いは、「この平均的なAIの回答に対して、あなたは何を感じ、何に気づき、あなたなりに何をどう表現するか?といったものにシフトすることも考えられます。

  • AIが提示した「当たり障りのない60点の模範解答」を読んだとき、どこに違和感を覚えるか?
  • 提示された複数の選択肢から、どれを「自分の言葉・自分のスタンス」として引き受けるか?
  • 予想外の結果や失敗に直面したとき、どう仮説を立て直して前に進むか?

こうした「違和感を言語化する力」、「主体的な選択」、「知的な粘り強さ」は、単一のペーパーテストの点数では測れません。数値化しにくい非認知能力や、物事に対するスタンス(姿勢)の観察を通してしか見極められない領域です。

未来の教育現場は「教える場所」から「揺さぶる環境」へ

こうした未来を見据えたとき、学校や教育現場の役割はどのような場所になるでしょうか。

従来の教育現場は、教科書に書かれた知識を「授ける(教える)場所」でした。しかし、知識の伝達や要約、反復練習の効率化をAIが担えるようになった今、その役割の重要性は相対的に下がってきています。

これからの教育現場が目指すべき姿の一案として、

知識を一方的にインプットする場所ではなく、子どもたちの認知や価値観を多様な機会で「揺さぶり」、自己変容を促すための環境(プラットフォーム)

  • リアルな社会課題や、生身の他者とぶつかり合う協働の場を提供する
  • AIが出したスマートな答えでは解決できない「割り切れない葛藤」に直面させる
  • 安全に失敗し、自分の判断基準をアップデートできる試行錯誤のプロセスを保証する

学校の価値は、「どれだけ多くの知識を詰め込ませたか」ではなく、「その場所にいたことで、子どもたちがどれだけ自分の枠組みを壊し、新しく生まれ変わる経験(変容)を積めたか」で測られるようになるようなイメージです。

「AIなら30秒でできることを、なぜ人間がやるのか?」

この問いに真っ向から向き合い、課題を再設計できる教育現場だけが、これからの時代、子どもたちに対して胸を張って「さあ、一緒に学ぼう」と言えるような気がしています。