学生の学習風景
2010年以降、日本でも少しずつ盛り上がりを見せてきたEdtech業界。2020年までに生徒1人に1台タブレットを配布する、といった政府方針も決まり、参入するプレイヤーも増えてきた気がします。

まだまだ課題の多い業界ですが、ここで2016年以降の展望を把握すべく、日本におけるEdtech界隈の市場規模の確認や、各サービスのカテゴリ分類などを行い、一旦整理しておきたいと思います。

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そもそもEdtechとは?

Edtechとは、「Education(教育)」と「Technology(科学技術)」を掛け合わせた造語で、2000年代中頃のアメリカが発祥となっています。
テクノロジーの進歩・発展にあわせ、旧態依然とした教育現場を、テクノロジーの力で革新していくことを目指すビジネス領域です。

日本ではどちらかというと、「教育ICT(Information and Communication Technology)」や「e-ラーニング」といった言葉が用いられているかもしれませんが、”概ね”同じと考えてもらってよいと思います。
細かく見ていくと多少違いは出てきますが、いまだ市場自体が未成熟なため、定義自体は今後はっきりしてくるはずです。

あえて個人的なイメージで違いを説明すると、「e-ラーニング」は、企業の研修含めDVDやネット配信される動画をただ観て勉強するだけのもの。「教育ICT」は、学校周りの仕組みやコンテンツをITによってデジタル化する、といった印象です。

しかし、「Edtech」では、たとえ学習教材であろうと、ウェブカメラを用いた双方向性の学習体験や、ソーシャルネットワーク上の不特定多数に、疑問や質問を投げかけ回答をしてもらうといった、高度な学習を実現させているという違いがあります。

加えて、教員の業務効率を改善する管理ツール、幼稚園などでレクリエーションを担当するヒューマノイドロボットも含まれてきたりと、教育現場のあり方に直接影響を与えうるコンテンツが「Edtech」といった感じです。

教育業界の市場規模について

上述のように、Edtech自体盛り上がってきたとはいえ、まだ黎明期から少し毛の生えた段階でしかありません。
実際マネタイズに成功し、利益をあげているサービスは極めて限られており、今後2〜3年で徐々に各分野のキープレイヤーが出てくるか、という状況です。

特に公教育の現場では、これまで文科省や教育委員会が徹底して管理してきたため、こうしたテクノロジーの普及する土壌がなかった点がネックとなっています。
教育機関向けサービスは、一部の私立校などで試験的な運用が始まっていますが、いまだ代表的なサービスは出てきていない、といった事実がこれを物語っています。

マーケットとしてEdtechを成長させていくには、公教育現場への導入は不可欠。2020年までのタブレット端末が普及するこの3〜4年が、Edtechの真価が問われるタイミングになってくると思われます。

e-ラーニングの市場規模について

ちなみに、Edtechという括りではありませんが、間接的に関連してくるe-ラーニングの市場規模についてここで確認しておきます。

e-learning市場規模

矢野経済研究所の調べによると、2015年度のe-ラーニング市場規模は、約1,730億円とのこと。
ここでのe-ラーニングは、ネットを利用した学習サービス・システムの他、スマホやPC向け学習用ソフトウェア(ゲームも含む)も含んでいるそうです。
同じ業界内の「学習塾・予備校市場規模(9,420億円)」と比べても、未熟な市場であることがわかります。

海の向こうアメリカでは、すでに電子教科書や教育アプリといったデジタル教材などの「教育向けソフトウェア」の市場規模が約1兆円(2014年)に達するともあり、国内の学習塾・予備校市場をも上回るスケールとなってきています。

これも公教育現場でのデジタル化が進んでいる結果であり、日本も環境が整ってくれば、アメリカほどでは無いものの、まだまだ成長が見込まれます。

国内Edtechサービスの分類

さてここからは、国内のEdtechサービスに焦点をあて、どんなコンテンツがリリースされているかについてまとめていきます。

メジャーなものからニッチなものまで、全て網羅することはできませんが、できる限り取り上げていきたいと思います。

学習コンテンツ・サービス

まずは、一般層(BtoC)向けにリリースされている学習コンテンツ(MOOC、受験関連など)を、学習内容とターゲットでまとめてみます。

Edtechサービスマップ - BtoC

(※マップは随時更新していきます)
[ターゲット]幼児、小学生、中学生、高校生 / 大学生〜社会人
[学習内容]基礎学力向上(受験対策、資格取得) / 語学関連 / その他

– 幼児〜小学生向けサービス
このカテゴリーでは、幼児向けに知育アプリ、小学生には学力向上の学習コンテンツが主に提供されています。
参入しているプレイヤーも少なく、一見穴場に思われますが、決済者(両親)とサービス利用者(子供)が異なる教育業界特有の構造から、一筋縄ではいかない難しさがあります。親に向けて、いかにその効果と学習意義を訴求できるかがポイントとなり、徹底したヒアリングのもと、親も巻き込んだ戦略が求められます。

現状、幼児向けサービスとしては、パズルや宝探しなどのゲーミフィケーションを取り入れた知育アプリをリリースしているKidsStarPlay Study Go !、園児向けのIT教育プログラムを提供するSMART EDUCATION、大手ではベネッセのしまじろうクラブがあげられます。

また小学生向けには、通信教育をタブレットで行う進研ゼミ+学研タブレットゼミZ会小学生タブレットコーススマイルゼミあたりが有名で、このカテゴリーは比較などしながら追々まとめていきたいと思います。

その他、早くから英語を学ばせたいという家庭では、GLOBAL CROWNKidsStarEnglishといったサービスがメディアでも取り上げられ、子供向けオンライン英会話に進出してきています。

特徴的な点として、海外で流行り始めているSTEM(理数系)教育の流れをくんだサービスが、特に小〜中学生を対象に広がっている点があげられます。
専用のアプリでプログラミングを学び、そのプログラムをもとにロボットを実際に動かしてみる、という体験を幼いころから経験できるとあり、レゴ(R)WeDo2.0は世界的に有名です。
また、PILE PROJECTも同系統の取り組みを行っていたり、今流行りのスマートトイでなら、自宅でも似たような学習体験を得ることができます。

[関連記事]
遊んで伸ばす創造性と問題解決力。世界中で話題の「スマートトイ」を悩んで4つあげてみる

– 中〜高校生向けサービス
中高生に向けては、言わずもがな受験対策に関連するサービスが主流となっています。
高校・大学受験と、大事な進路選択を前に最近では塾ではなく、こうしたオンラインコンテンツを利用する受験生も増えてきています。

この分野の1番手は、やはりリクルートの運営するスタディサプリかと思います。月額980円で「センター対策講座」「志望校対策講座」などの講義動画が見放題なうえ、その他特典も盛り沢山。
次点でアオイゼミmanaveeスマホ家庭教師manaboが続き、各サービスとも差別化をいかに図るかがユーザー獲得の鍵となっています。

その他、学習内容や時間を管理して友達とシェアし合うStudyplusや、自分に合った「学び方」を身に付けられるセンプレといったサービスは、受験勉強を異なる側面から支えるツールとして存在感を発揮しています。

– 大学生〜社会人向けサービス
大学生、社会人では、実践的なスキルに対する需要が高く、英会話、プログラミング、資格取得といった技能習得メインのサービスが数多く存在します。
他と比べマネタイズもしやすく、新規参入するプレイヤーが増えているカテゴリーですが、その分競争も激しく、先発したベンチャーが後発の大手に飲まれ撤退していく、といった例は枚挙にいとまがありません。

特に、オンライン英会話(Skype英会話)は、DMMなどの参入によって価格破壊も進み、ある程度市場が形成されてきた感もあります。
レアジョブラングリッチとそれに準ずるプレイヤーから、比較的初期から踏ん張っているBest Teacher(※2016/8/2 日本入試センターに完全子会社化されましたが、サービスは継続とのこと)を個人的には注目しています。

教育機関・教員向けサービス

次に、学校や教員に対して提供されているサービスをみていきます。
現場の業務効率改善や、授業や学びにどういった付加価値を与えられるかといった点がポイントとなります。

Edtechサービスマップ - BtoB

(※マップは随時更新していきます)
[機能別]TTL / LMS / LET

– TTL(Teacher Tools)
TTLは、教員個人のスキルアップや、仕事上の問題解決を支援するツールのことを指します。
そもそも教員向けサービスは数も少なく、教員が個々でスキルを磨いたり、日頃の悩みを解決できるサービスはほとんど見当たらないのが現状です。
この分野はどちらかというと、各地で行われている勉強会やセミナーが受け皿となりニーズを満たしているため、Webやネット上にも、教員が気軽に学べる場がもっと出てきてよいと思います。

そんな中、Edtech業界ではすでにお馴染みとなっているSENSEI NOTEは欠かせません。小中高の先生向けSNSとして、教科指導・生徒指導・校務分掌から部活指導に至るまで全国の先生とやり取りすることが可能です。
また、新学習指導要領(8月1日公表)にて取り上げられた「アクティブラーニング」に関する学びをネット上で得られる、「インタラクティブ・ティーチング」と「Find!アクティブ・ラーニング」は要チェック。

インタラクティブ・ティーチング」は、東京大学の大学総合教育研究センターがgacco(MOOC)にて無償提供している講座です。受講者が主体的に学ぶ場を作るための技法を、座学と対面授業(※選考あり)を合わせて8週間で学ぶことができます。
そして、当ブログでも紹介している、昨年スタートの新サービス「Find!アクティブ・ラーニング」にも注目です。

[関連記事]
「Find!アクティブ・ラーニング」で、授業をWebで見学しながら生徒の主体性を伸ばす

実際に学校現場で行われているアクティブラーニングを、動画として配信し、実施の際のポイントや先生方の具体的な取り組みを紹介してくれています。アクティブラーニングは実施してみたいけど、何からはじめていいかわからない、という先生には是非一度使ってみてほしいと思います。

– LMS(Learning Management System)
LMSは、教材の作成・配布・回収・採点・成績管理といった、授業内で生じる業務に対して効率化を提案するサービスです。
タブレットが1人1台配布されている学校では、授業中の小テストや理解度チェックにLMSが用いられ、生徒の学習状況をタブレット上で一元管理するといった使い方がメジャーとなっています。
日々の学習成果をタブレットにストックし、いつでも生徒の状態に合わせて授業を組み立てられます。効率のよい授業運営には欠かせないアシストツールとして、今後さらに普及していくと考えられます。

日本のみならずアジアにも進出しビジネスを拡大させているQuipper Schoolを筆頭に、School Taktロイロノートがそれに続き、今春にはZ会のStudyLinkZもリリースされる予定です。

その他、FLENSQubena(数学教材)、Class Writer(英語教材)といった塾などでも使われている学習支援サービスや、LMSで蓄積したデータを集計・可視化し分析を行うKnowledgeRecorderといったサービスも出てきています。

今後タブレットの普及が進む教育現場で、LMSにはさらなるプレイヤー・サービスが登場すると考えられます。一度学校の授業システムに食い込めれば、そこからプラットフォーマーとして、第三者からの教材提供やコンテンツ配信も行えるため、いかに迅速に展開できるかがポイントです。

– LET(Learning Extension Tools)
LETは、普段の授業をテクノロジーやプロダクトを用いて拡張し、より高度で魅力的な学習体験を可能にするサービスです。(※LETのみ正式な用語でなく、当ブログで勝手に作ったカテゴリー・造語ですm(_ _)m)
ニッチな分野でまだプレイヤーも多くはありませんが、個性的なサービスが生まれやすい領域でもあります。

例えば、幼稚園などの園児に対しレクリエーションやお守りを行うヒューマノイドロボットMEEBOがあげられます。保育士さんが担う業務の一部をフォローしたり、遊びの幅を広げたりと、MEEBOを通した新たな価値が生み出されています。

また、Kocriはアプリ上に用意した画像や動画を、プロジェクターを通して黒板に映し出し、簡易的な電子黒板を再現。
そして、bonsai labは多くの子供や先生達のアイデアを形にすべく、安価な3Dプリンターを学校向けに提供しています。モノづくりに小さい頃から触れることで、クリエイティブな発想力を伸ばすとともに、学校という教育現場の可能性を広げるツールにもなっています。

まとめ

今回は、Edtech業界の市場やサービスについてまとめるだけまとめてみました。
個人的には、多数出てきたサービスの分類と今後の展望についてある程度整理できたためよかったと思う一方で、さらに深掘りできるネタが各パートに腐るほどあることもわかりました。
再度改めて個別のテーマで記事を書いていければなと。

特に、
・アメリカでEdtechが普及している本当の原因はなんなのか?
・海外のEdtechが、国内サービスを駆逐してしまうことはないのか?
・Edtech市場(国内)の成長に必要な条件の整理
・教育現場におけるタブレット普及は、現在どれほど進んでいるのか?
・各サービスのより詳細な比較分析
・今回あまり取り上げなかった教育関連”アプリ”の現状
・Edtechとは、教育コンテンツをwebやアプリにして提供するだけで良いのか?
→教育現場を変えていくEdtechには、どんな設計思想が必要か?
・パフォーマンス向上、コスト削減、効率化以外で、テクノロジーを教育の現場で使う意義とは?

などなど

掘ろうと思えばいくらでも出てくるもので。もっとスピード上げてガンガンEdtechの情報を発信していければと思います。

[参考]
【スタートアップ・トレンド地図】日本の教育系「EduTech」シーン俯瞰ーー注目の27社一覧と北米比較 – THE BRIDGE(ザ・ブリッジ)
競争激化のEdTech 勝ち残りのポイントは「学びの設計」 | 月刊「事業構想」2014年9月号
日本発のEdTechを世界へ、教育系ベンチャーの公開コンテストで「Clear」などが受賞:ITpro
「eラーニング」から「EdTech」へと変化するデジタル教育市場 – CNET Japan
「新しい教育」の話をしよう | 上杉周作