イギリスの街中
イギリスに住んでいる人=イギリス人であっても、「イギリス民族」というくくりの種族はどこにもいない。
それがグレートブリテン及び北部アイルランド連合王国の実態です。

厳密にはイギリス(大英帝国)という国はなく、グレート・ブリテイン(GB)と北アイルランドの連合王国となっています。
今回は、そんなイギリスをテーマに、その地に暮らす4つの民族を取り上げ理解を深めてみたいと思います。

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国旗にも表れる多民族国家の証

イギリス国旗ユニオンジャック
ユニオンジャックでお馴染みのイギリス国旗。
どの国でも、その地特有の文化や自然を表した国旗が多いのですが、イギリスでは各地に住む民族の象徴が合わさってできています。

イングランドのセント・ジョ-ジ・クロス(白地に赤十字)に、スコットランドのセント・アンドリュース・クロス(青地に白の斜め十字)、そしてアイルランドのセント・パトリック・クロス(白地に赤の斜め十字)を掛け合わせたものがイギリス国旗です。

各地のイングランド人(ゲルマン民族系のアングロ・サクソン人とも)、スコットランド人、北アイルランド人に加えウェールズ人の4つの民族が、イギリスを構成する主な民族であり、その他旧植民地出身のインド系(印僑)、アフリカ系、アラブ系や華僑なども多く生活しています。

イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4つの非独立国

イギリス各地
各地域を上記図で色分けしてみました。右の本島がグレートブリテン島、左がアイルランド島です。
全体の比率はイングランド人が最大で全人口の約7〜8割を占め、次にスコットランド人、ウェールズ人、北アイルランド人の順となっています。

歴史的背景から、各地域は非独立国家としての性質を持ち、それぞれに首都が置かれ政治や行政が執り行われています。
独立運動はもちろん、民族間の問題も度々発生するため、ひとくくりにイギリス人やイングランド人として見てしまうと、相手のアイデンティティーを軽視することにつながりかねません。
非常にデリケートな問題で、日本人には感覚的に理解できない点もあるかもしれませんが、現地での言動には注意が必要になってきます。

逆にそうした背景を踏まえ、各地の位置関係や特色を理解し、アイデンティティーを尊重する振る舞いができれば、より友好的な関係を生み出すきっかけになるともいえそうです。

イングランド

首都はロンドンであり、連合国の中心としても機能するイギリス最大都市です。
EU内でも最大人口を誇るロンドンには、観光地として有名なビッグベンや大英博物館、バッキンガム宮殿などがあり、多くの観光客で常に賑わっています。

また、イングランドはサッカー発祥の地としても有名で、マンチェスター・ユナイテッド、リヴァプール、チェルシー、アーセナルなど擁するプレミアリーグは、世界最高峰のリーグとして君臨。
そのリヴァプールは、音楽界のレジェンドであり世界的大スター、ザ・ビートルズの出身地でもあります。
その他、文学においては「ハムレット」「ロミオとジュリエット」で知られるシェイクスピアもイングランド人です。

ケンブリッジ大学やオックスフォード大学など、常に世界のトップ10に入ってくるような教育機関含め、イギリス全土を代表する物事がガッツリ揃っているのがイングランドの特徴です。

スコットランド

スコットランドはグレートブリテン島の北部に位置し、エディンバラに首都を置きます。
ヨーロッパ最大の金融センターの一つであるグラスゴーには、スコットランドにいる約40%の人間が集中していると言われ、実は首都のエディンバラより人口が多いのだとか。

産業革命以前から科学や技術の中心地であり、電話を発明したグレアム・ベルや蒸気機関のジェームズ・ワット、空気入りタイヤを発明したジョン・ボイド・ダンロップなど多くの発明家を輩出しています。

文化面では、伝統衣装であるキルトと呼ばれるタータン柄のスカートや、グレート・ハイランド・バグパイプという楽器が有名です。
バグパイプはスコットランドで非常にポピュラーな楽器であり、多くの演奏者がコンクールやコンサートで腕を競い合います。

昨年は、イギリスからの独立を問う住民投票なども行われ、独立とまではいかなかったものの、民族意識の高い人達が多いのが特徴。
スコットランドには、自身をスコティッシュ(スコットランド人)だと誇りにしている人が多いため、接する時はその点を考慮した振る舞いが重要です。

ウェールズ

イングランドの西に位置するウェールズ。首都は南部のカーディフです。
国土の大部分は山地となっており、18〜20世紀前半までは世界最大の石炭輸出地域として栄華を極めましたが、現在は重工業から軽工業、サービス分野に転換し経済を成り立たせています。

そしてこの地の誇りとなっているのが、ラグビーのウェールズ代表です。
イギリスの一部ということでサッカー人気はあるものの、ウェールズにおけるラグビー人気は圧倒的でアイデンティティーの一部とも言われています。
最近日本でもラグビー人気が盛り上がりを見せているため、試合観戦の際はぜひチェックしてみてください。
その他スヌーカーと呼ばれるビリヤード競技も人気だそうで、世界的なプレイヤーを何人も輩出しています。

イングランドやスコットランドのような派手さはないものの、森林や湖、丘陵、海岸などの豊かな自然が残り、国土の約20%が国立公園に指定されています。
のんびり静かな観光地として、夏場などは避暑地としても最適かもしれません。

北アイルランド

グレートブリテン島にある3国とは異なり、隣国アイルランドの北部に位置する非独立国です。
過去、アイルランドはイギリスに南北分割されていた時期があり、その後独立や内乱、離脱を経て北アイルランドはイギリス側に留まることとなりました。
現在は落ち着きを取り戻しているものの、イギリスからの独立派と連合維持派の間では、未だに対立は続いており、散発的な暴力事件が起きていたりもしています。

ただ、そうした争いも頻発している訳でなく、普段は静かで自然あふれる美しい土地として有名です。
国土面積は約14,000km²と、福島県より少し大きく岩手県より少し小さい程度の小国で、短期間でもその魅力を余す所なく楽しめます。

人気の観光地にはコーズウェー海岸があり、ジャイアンツ・コーズウェーやキャリック・ア・リード吊り橋といった名所が評判です。
歴史的な城郭都市ロンドンデリーには、有名な城壁やこの地特有のユニークな建築物が並び、まさに普段味わえない非日常の世界を堪能できるとのこと。

雰囲気的には、北欧に近い感じの土地柄なため、本島とは異なるイギリスの意外な一面を垣間見る事ができます。

まとめ

調べてみてわかったことは、イングランドを除く3国は、独自のアイデンティティーを持ちながらも実生活や利益の面を考慮し、イギリスの属国であることを合理的に優先している地なのだということです。

独立はしたい、けれど現実的に考えて経済活動や社会を回していくにはイギリス(イングランド)の後ろ盾が無いとそれはそれで難しい、という現状。
独立運動における国民投票で、連合維持が多数派になるということは、こうした状況を顧みてのことなのだなと感じました。

今回は、各地域の簡単な土地柄についてまとめましたが、今後イギリス人と会う際は、相手がどこ出身かを尋ねて直接その地の情報に触れてみるのもいいかもしれません。
イギリス人の中でも民族的な違いがあり、それぞれのアイデンティティーを大切にしているということを理解してもらえればと思います。