読めば読むほどヘビーな読書体験をさせてくれる教養本の代表格「銃・病原菌・鉄」。先日に引き続き下巻を読み終えたので、こちらにそのメモを残しておきます。
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上巻でテーマに慣れ、下巻もサクッと読めるだろうと思ったものの、人類史というテーマの重さに改めて苦戦した次第です。
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目次とコンテンツ概要
第3部 銃・病原菌・鉄の謎
第12章 文字をつくった人と借りた人
第13章 発明は必要の母である
第14章 平等な社会からの集権的な社会へ
第4部 世界に横たわる謎
第15章 オーストラリアとニューギニアのミステリー
第16章 中国はいかにして中国になったのか
第17章 太平洋に広がっていった人びと
第18章 旧世界と新世界の遭遇
第19章 アフリカはいかにして黒人の世界になったか
エピローグ 科学としての人類史
下巻では、上巻に引き続き「第3部 銃・病原菌・鉄の謎」からはじまります。
第3部まとめ、メモ
第12〜14章にかけて、文字の発明、技術への受容性や発展のスピード、社会の段階的種類と集権化への流れなどが説明されます。
高度な文明を築き上げるため不可欠だった文字と技術革新。そして、それらを伴いどういった社会構造を構築していったか、その変遷を追うことが第3部の内容です。
12章 文字をつくった人と借りた人
・文字が誕生するには、数千年にわたる食料生産の歴史が必要だった(文字の読み書きを専門とする役人を養うゆとり・蓄えが必要だったため)
・文字は当初エリート階級のみ使えるものであり、下級民を支配するため他の人間を隷属化させるためのツールとして用いられた(使い道や使用者層が限定されていた)
13章 発明は必要の母である
・一般的に「必要は発明の母である」という言葉があるが、それとは全く逆の現象として「発明は必要の母である」という状況が、実は数多く生まれていた(例:ジェイムズ・ワットの蒸気機関、トーマス・エジソンの蓄音機など)
・技術は1人の天才が突然生み出すものでなく、累積的に改良が施され完成するもの(そしてタイミング良く、社会がその技術を受容できてはじめて功績として認められる)
・技術が受け入れられるかどうかは「経済性」「社会的ステータス」「互換性」「メリットの分かりやすさ」の4条件が深く関係している
・地域や社会によって受容性が異なるのは「平均寿命」「労働力の有無」「知的所有権」などその要因は多岐に渡る
・発明された技術それ自体より、その発明によって新たな発明品が開発されることが重要(技術の自己触媒的発達)
14章 平等な社会からの集権的な社会へ
・政治と宗教は密接に関係し合い、それが武力を伴って結びついていた場合には、政府の行為を宗教が正当化するというパターンができあがる
・人間社会の変遷は「小規模血縁集団(バンド)」「部族社会(トライブ)」「首長社会(チーフダム)」「国家(ステート)」という4つの段階に分類できる
・地域の人口規模と社会形態のあいだには相関関係があり、人工が増えるほど社会的複雑性は増す
第4部まとめ、メモ
第15〜19章では、オーストラリア大陸とニューギニア、中国、インドネシア周辺、そしてアフリカ大陸における文明の発展を取り上げたパートです。人類の歴史が大陸によって異なる理由を、に解き明かし、各国・地域の状況を整理します。
15章 オーストラリアとニューギニアのミステリー
・4万年前の時点では、オーストラリアはヨーロッパその他の国を大きく引き離すほどの文明を築いていた(世界最古の磨製石器や壁画など)
・アボリジニ達はオーストラリア特有の気候や自然環境に適応するため、定住しながらの食料生産ではなく、移動生活をしながら狩猟採集活動に従事した
・オーストラリアでは、地域によって既存の技術が廃れてしまう現象が起きたが、それはその地域の民族集団が比較的小さく孤立しながら存在していたため、生き延びることができなかった
第16章 中国はいかにして中国になったのか
・動物の家畜化や植物の栽培化が世界でもっとも早い時期に始まった地域が中国である
・南北の自然環境に差はあったが、黄河や揚子江による各地域の交易や交流が盛んに行われたため、文化的・政治的な統一が比較的早い時期に達成された
・統一が進んだことにより、1つの政策や決定で貴重な発明や海外との交易が禁止され、文明発展の妨げになった
第17章 太平洋に広がっていった人びと
・過去6000年間に起こった人類史上最大の人口移動にオーストロネシア人の拡散がある(台湾から始まり→フィリピン→インドネシア→ジャワ→マレー半島→フィジー諸島→サモア諸島→ハワイ諸島→イースター島→ニュージーランド、その他マダガスカル島までその範囲は及ぶ)
第18章 旧世界と新世界の遭遇
・ヨーロッパ人がアメリカ先住民を退けられたのは、「食料生産」「免疫・各種技術」「政治機構」という文明を先に手にしていたからだ
・南北アメリカの発展が遅れたのは、地理的要因(砂漠、山脈、ジャングルなどにより分断されていたこと)によるところが大きく食料生産や技術の伝播がスムーズに行われなかった
第19章 アフリカはいかにして黒人の世界になったか
・西暦1000年頃、実は5つの人種がアフリカ各地に住んでいた(人種の多様性)
・人種の分布と言語分布が概ね対応しており、それは言語がその言語を話す人種とともに進化し、発展する傾向にあることを示している
・現在のサハラ地域は草も生えない砂漠と化しているが、紀元前9000〜4000年頃は湿潤な地域であり、アフリカ大陸でもっとも早く食料生産された地とされている
などなど。
個人的におもしろいと思った部分を抜き出してみましたが、実際にはまだこの倍以上取り上げたい箇所がありました。
一部しか載せていませんが、相変わらずの濃さと興味をそそる独特な視点で下巻も中々楽しめる内容です。
ただ正直なところ、下巻は上巻で述べられていた結論を、さらに分かりやすく解説したものという印象が拭えないため、上巻ほどのインパクトは感じられませんでした。
世界の謎を1つ1つ解明していく過程は楽しめますが、最終的な結論(民族や社会によって差が生まれた原因)は地形や動植物相を含めた環境によるものだという点に行き着くため、新鮮さはほとんどありません。
また、本書のタイトルになっている「銃・病原菌・鉄」について、最後まで読んでみましたが実際のところほとんど触れられることはありませんでした。
それら3要素が、どれだけ歴史に影響を与えたかについては自明であり、なぜそれをヨーロッパ人がいち早く持つようになったのか?に主眼の置かれている本作なため、そちらを期待した方には物足りないかもしれません。
432ページに及ぶ本書が与えてくれるもの
中々気軽に読むことのできない本書ですが、全てを理解し切れなくとも読み切ることで学べることは多くあります。
テーマとなっている人類史の紐を解き明かすことはもちろん、それを解き明かすためのプロセスとして多様な学問から視点を複合し結論を導くアプローチはとても勉強になります。
著者自身、生理学科に所属する医学部の教授ですが、ここでは専門の分子生理学・進化生物学に加え、遺伝子学・生物地理学・環境地理学・考古学・人類学・言語学などの知見を持ち出し、謎の究明に取り組んでいます。
当時その場所で何が起こっていたのか?という過去を調べるために、これだけの学問を総動員し1つ1つのデータや根拠を提示していく。その様はまさに圧巻で、研究者がどういった状況からどんな推測・仮説を立て、どう論証し、何が重要で何が重要でないのか判断するその思考の追体験を可能にします。
まとめ
本を読み切るということが、これだけ達成感を与えてくれるものなのかとはじめて知りました。笑
これまで触れてこなかったテーマでもあり、読み進めるにはかなり困難を極めました。ただ、環境学や遺伝子学、地理に言語学と全く無頓着な分野に触れられたことで、今後何を読んでも抵抗なく読み進めることができそうです。
難しいと思って敬遠してしまうことは1番勿体無い気もするので、この書籍を通じてある程度の本には挑戦できる気構えができたと思います。