ヨーロッパ思想入門

哲学や宗教に興味はあったものの、どこから始めていいのかわからず後回しとなっていましたが、今回ついにチャレンジです。
とりあえず詳しいことはこれから学んでみてから、ということでまずはメジャーな分野である西洋思想を取り上げていきます。

「ヨーロッパ思想入門」は、数ある入門書の中でも群を抜いて読みやすく、思想方面の勉強を進める上で良質なブックガイドと評判の一冊。
岩波ジュニア新書ということで中高生向けとされていますが、大学生や社会人であっても読み応えは十分です。

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目次とコンテンツの内容

ヨーロッパ思想入門目次

第1部 ギリシアの思想
 1章 ギリシア人となにか
 2章 ホメロス
 3章 ギリシア悲劇
 4章 ソクラテス以前の哲学
 5章 ギリシア哲学の成熟
第2部 ヘブライの信仰
 A 旧約聖書
  1章 イスラエル人の歴史
  2章 『創世記』の神話
  3章 預言者
 B 新約聖書
  4章 イエスの生涯
  5章 イエスの教え
  6章 パウロ
第3部 ヨーロッパ哲学のあゆみ
 1章 中世のキリスト教哲学
 2章 理性主義の系譜
 3章 経験主義の系譜
 4章 社会の哲学
 5章 実存の哲学

本書はヨーロッパ思想が、「ギリシアの思想」と「ヘブライの信仰」という2つの土台から成り立っていることを念頭に、そこから派生していくヨーロッパ哲学の概観が広範に描かれています。

古代ギリシャから近現代までの長い歴史を俯瞰できる構成で、各時代における思想家について一通り触れるものの、人物よりヨーロッパ哲学の大まかな流れや進化に焦点をあてているという印象です。

ギリシア思想とヘブライ信仰ではどのような考え方が中心となっているのか、どんな哲学者がいて誰の思想を参考に自身の論理・主張を展開していったのか。過去から現在に至るまで脈々と受け継がれてきた思想の核に重点が置かれ、初学としてその全体を把握するに最適な構成となっています。

主に取り上げられている人物

【ギリシャの思想】
ホメロス、アイスキュロス、ソフォクレス、
クセノパネス、パルメニデス、デモクリトス、プロタゴラス
ソクラテス、プラトン、アリストテレス

【ヘブライの信仰】
イスラエル人の歴史、創世記の神話、預言者
イエス、パウロ

【ヨーロッパ哲学】
アウグスティヌス、トマス・アクィナス、
オッカム、ルター、
デカルト、カルト、ヒューム、ロック、ヘーゲル、マルクス、
ロールズ、キルケゴール、ニーチェ、ハイデガー、レヴィナス

良い意味で思想や哲学への考え方が変わる本

哲学・思想ということで節々に専門用語は出てきますが、極力その使用を控えながら多様な具体例とわかりやすい解説のお陰で、思ったより抵抗なく読み進める事ができたと思います。

部分的に突っかかる箇所があっても、その後の要約や言い換え・著者自身の解釈など含めて読むと、その章や節を終えた時点でしっかり頭に入っているというレベル。本当にわからない部分は、少し時間を置いて2,3度読み返すとなるほど、と腑に落ちると思います。

ジャンル的に事前知識が必要か、とも思いましたが、そんなことはほとんど無く、変に小難しい表現や言い回しを多用する研究者や教授の独りよがり教科書とは一線を画す逸品でした。
わかりにくいものをわかりやすく説明するとはこういう事かと、著者の卓越した技量に脱帽。身構えること無く、安心して手にとって読んでみて欲しいと思います。

また、初めて学ぶという方以外にも、案外わかったつもりで誤解していたり、基本的な問いに答えられない、という方には振り返りとしてもオススメできます。

具体的には、
・キリスト教とユダヤ教の違いは何か
・神がいるなら、なぜこの世の不条理・罪人は罰せられないのか
・デカルトの有名な「我思う、ゆえに我あり」とはつまりどういう意味か
・ニーチェの「神は死んだ」発言から、なぜ神は死んでしまったのか  など

こうした知ってそうで、そういえば知らない哲学や思想の基礎基本を、この書で一度整理してみるといいかもしれません。

特に全知全能であるはずの神が、なぜこの世にはびこる悪を赦しているのか、という長年の疑問の答えをこの本の中に見つけた時、ああああーなるほどそういうことね!と、つい声に出して頷いてさらに何度か読み返してしまいました。
本書は246ページとボリューム的にも軽く、むしろこれだけの分量でここまで納得し、理解できるものがあるのかと終始感心しっぱなしです。

哲学というと、どこか一部分の専門家だけのものという印象がありましたが、よくよく考えてみると、上記のような人と神との関係・人間自身の存在や幸せについては、誰もが一度は悩み考える問題でもあります。
1人の人間として様々な悩み事の原点を、過去の偉人達の考えに触れながら改めて深める機会になればと思います。

入門書・概説書としてこの本から始め、気になる哲学者の思想については是非個別で調べみてください。