飛行機からの眺め
本日9時35分頃、日本の悲願とも言える国産小型ジェット旅客機「MRJ(三菱リージョナルジェット)」が、日本の空に飛び立ちました。
1962年オールジャパン体制で製造された「YS-11」以来、53年ぶりの快挙ということで日本中から注目が集まっています。

今日くらいは手放しでその達成をお祝いしたい。そう思いつつも、日本の小型旅客機の置かれた状況は依然厳しいもの。
ということで、今回はそんなMRJの置かれたの市場環境と、直面している課題について簡単に整理していきたいと思います。

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航空機産業の市場環境

航空機産業業界図
(※画像クリックして拡大)
まず航空機産業では、200~300席クラスの「中・大型」機市場と100席未満の「小型」機市場とに分けることができます。

上記図のように「中・大型」機の市場では、すでにアメリカのボーイングとフランスのエアバスが2社で独占しており、米欧2大メーカーの覇権争いが続いている状況です。
これまで日本は特にボーイング社に対し、機体やエンジン、制御機器などの構造部品を製造・供給する重要な役割を担ってきました。代表的な企業として三菱重工業、川崎重工業、IHI、東レがそれに当たり、東レに関してはボーイング社の新型機(777X)向けに1兆3,000億円(110億ドル)規模の受注を獲得したことでも話題となっています。

そんな日本が今回開発したMRJは、100席未満の小型機市場に分類されます。
三菱重工業が64%を出資し三菱航空機を新たに設立。MRJの製造と販売を手がけ、一メーカーとして小型機市場への新規参入を果たしました。受注の主な確定先はANA、JAL、米国の大手地域エアライン(スカイウエストなど)がメイン。

現在、小型機市場ではロシア・中国を除き、カナダのボンバルディア、ブラジルのエンブラエルの2社が代表的企業として挙げられます。
特にボンバルディアは、小型旅客機をメインとしながらも、100~149席程の小型〜中型のミドルを狙った新型機開発も進めており、ボーイングやエアバスにも攻勢を仕掛けていくようです。
今後三菱航空機は、この2社の競合となり市場で争っていくことになります。

アジアを中心に需要が増大

航空機業界はこの先、成長の続くアジアを中心に需要が高まり、LCCなど格安航空会社の普及・拡大から、20年後の2035年頃に航空機の運行機数は現在の1.8倍になると予想されています。
その上、現存機(約2万機)の更新需要も迎え、航空機関連各社は今後も安定して業績を伸ばしていくことが見込まれています。

ただ、国内の航空関連メーカーは、エアバスとの競争に伴いボーイング社からのコスト削減が厳しさを増し、より一層の生産自動化・省人化を強いられる形となっています。

MRJが直面する今後の課題

MRJが直面する今後の課題としては、以下の3点があげられます。

・旅客機開発のノウハウが未熟
・新型エンジンの先行メリット喪失
・アフターサービスに関する施設設置の遅れ

旅客機開発のノウハウが未熟

国産での新型機開発が約50年ぶりとなる日本にとって、MRJの開発は度重なるスケジュール変更・延期との戦いでした。
2008年に開発着手し、本来であれば2013年に納入を開始するところが2017年にまでずれ込み4年間の遅延が発生している状況です。

この後にも書きますが、遅延が発生すればそれだけ競合他社のキャッチアップを許してしまう上、今後の信頼関係にもつながってきます。
三菱航空機では、台湾での高速鉄道の工程管理に使われたシステムを導入するなどして、遅延防止に取り組んでいるとのことで、あらゆる手段を用いても遅延発生を食い止めたいところです。

新型エンジンの先行メリット喪失

スケジュールの遅延が起きることで生じる最大の損失が、この新型エンジン搭載の先行メリットが失われるというものです。
開発されたMRJには、米国プラット・アンド・ホイットニー(P&W)製の新型エンジン(PW1000G)が世界で初めて搭載され、従来機比20%減という燃費性能の良さが売りとなっています。

当初、この新型エンジンを搭載する旅客機はMRJのみで、エンジンサイズなどの関係から既存旅客機には設置できず、日本としての大きな強みになるはずでした。
しかし、ここにきてブラジルのエンブラエルが、2013年に同じPW1000Gを搭載した新型機「E2」シリーズの開発に着手。2018年以降の納入を予定しており、2017年納入予定のMRJは1年しか先行メリットが無いという状況に追い込まれたのです。

しかも、小型機市場でのエンブラエルの実績や信頼は、三菱航空機を遥かに凌ぐものであるため、機体性能でのメリットが維持できなければ厳しい価格競争に追い込まれる可能性も出てきます。

アフターサービスに関する施設設置の遅れ

そんな価格競争に追い込まれぬよう、差別化の1つとしてあげられるのがアフターサービスです。
機体の整備・補修を行い、メイドインジャパンとしての安全性をアピールする絶好のポイントとなる部分ですが、実はこの拠点の新設も遅れ気味で、先行するエンブラエルに比べ弱点となってしまっています。

日本製品の品質は世界でも抜群の強みとなりますが、それを支える環境整備・フォロー体制の確立は、MRJ開発と同様、重要な案件となっています。

まとめ

上記のように置かれた状況は決して楽ではないものの、どうにか乗り越え実績を積み上げていって欲しいと思います。

こうして日本を元気づけてくれるニュースも中々無いため、日本人としては是非成功してほしいですし、個人的に三菱航空機 森本浩通社長の「紙飛行機だったものが空に舞った」という言葉が非常に印象的で、日本産の飛行機が世界を飛び回る日が早く来ることを期待しています。

MRJ関連動画


【参考】
・日本経済新聞社(2015)『日経業界地図2016』
・ビジネスリサーチ・ジャパン(2015)『図解! 業界地図2016』
・東洋経済新報社(2015)『四季報業界地図2016』
MRJ初飛行が終了、国産旅客機で半世紀ぶり-「大成功に近い」 (2) – Bloomberg
MRJ初飛行:開発計画4年遅れ 激戦小型機市場楽観できず – 毎日新聞