本日より公開された『ハッピーエンドの選び方』は、観る人全てを笑いの渦に巻き込む「安楽死」をテーマにした作品です。
笑いと安楽死、全く関係なさそうな要素同士の間には、映画監督の「(死、または安楽死に対して)親しみを持って欲しい」という思いからきたそうな。
シリアスなテーマをいかに自分事として捉えてもらうか。ユーモラスなストーリーとバランスを取りつつ描かれる人間模様は、死に対する考え方にインパクトを与えます。
映画予告とストーリー概要
エルサレムにある老人ホームが舞台となるこの物語。主人公のヨヘスケルは”発明”が得意な入居者であり、自分の作品でみんなの暮らしを少しだけ楽にすることを趣味に生活していました。ユーモア溢れる発明品が他の入居者を元気づけ、観ているこちらもつい微笑んでしまうような日常を繰り広げます。
そんな中、ある難病で苦しむ友人からの依頼で、スイッチ1つで楽に死ねる装置を開発。それが話題となり、次から次へと安楽死を望む人々からの依頼が殺到します。
そこからストーリーは大きく展開し、共にホームで暮らしていた妻レバーナに認知症の兆候が。自ら安楽死装置を使おうとするレバーナと、それにショックを受け苦悩するヨヘスケスは、人生の最期にどのような決断を下すのか──。
終始絶えない笑いの中で、重いテーマである安楽死の是非を問うような場面は一切見受けられません。あくまでその答えは観客に委ねられ、観ている者1人1人が自分の中で考えるよう投げかけています。
観た後は、自分にとって最愛の人、または自分自身の将来に対し思いを馳せることになると思います。
安楽死を身近に考える機会に
安楽死の制度はない日本といえど、高齢化社会においてただ生きるためだけの延命治療などは話題にあがりやすいトピックです。
現在世界で安楽死を認めているのはスイス・オランダ・ベルギー・ルクセンブルクの4ヶ国で、アメリカでも、州によっては認めている所も増えてきています(オレゴン州・ワシントン州・バーモント州など)。
医療技術の発達により、長寿国として君臨してきた日本でも、今後どういった動きが出るかわかりません。
親族にとっては生きてて欲しい、けれど患者自身は家族に迷惑をかけたくない、尊厳のある人として死んでいきたい、という思いが錯綜する中、ズルズルと両者ともに疲弊してしまうというケースが実際問題多いと感じます。
この部分は身近に経験してきたこともあるため、ある程度確信を持って言えることですが、両者とも本当に辛い。どうすることが最善か?を考え始めた瞬間、本当にそう思っているのか、ただ自分が楽になりたいだけではないか、と、色々な思いがめぐり、いつまで経っても答えの出せない問題でした。
自分は大丈夫、関係無いと思っている人にこそ是非観て欲しい作品ですし、一度は自身の死について考える機会を持つべきとも感じます。
死ぬとはどういうことか。なにもできなくなるとはどういうことか。存在しなくなる、そこにいないとは何を意味するのか。人生が”終わる”とはなんなのか。
答えのない問いに対して、簡単に答えを出すことよりも、それに向き合う、直視することで自分の中で折り合いをつけていくことが重要かと思います。
【参考】
・“安楽死”をめぐる海外事情は – NHK BS1 キャッチ!世界の視点