JILS人間機械未来系討論
昨日、「【Japan Innovation Leaders Summit】”The Future of Human-Machine Interactions: Aquarius”人間機械未来系・惑星直列水瓶座・前陣速攻討論会」と銘打たれた、名称だけではよくわからないトークイベントに参加してきました。
登壇したのは、各テクノロジー分野で最前線をゆく研究者や実業家など総勢20名。その界隈では知らない人がいないという、世界的にも有名なゲストらが、”人間×機械”(HCI:ヒューマン・コンピューター・インタラクション)の未来について、意見を交わし合いました。

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討論まで辿りつかない、濃すぎる研究紹介

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討論会を主催した3名(画像左から石井裕氏・暦本純一氏・稲見昌彦氏)が水瓶座だったから、という理由で命名された本イベント。正直イベントが始まるまで、なんの討論になるのか漠然としていましたが、始まってみてさらに理解不能に。

各セッションで登壇するスピーカーの研究内容や世界観が、現世から逸脱の限りを尽くした未来に生きている系の表現できない”何か”であったため、軽はずみな「なるほど!」ほど失礼に値するレスポンスは無いのではないか、と感じさせるレベル。
しかも、討論会であるはずが各自の研究紹介が濃すぎて、それだけでセッションタイムの9割が終了するという事態にもなりました。笑

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壇上で急に卓球の壁打ちをはじめるMITメディアラボ副所長だったり、幽体離脱したいと思ったクリエイターが、相手と視点を入れ替えて自分を外から見られる装置を発明してみたり、初音ミクの特徴をプログラムしたDNAをips細胞に組み込み展示してみたGoogle研究員だったりと、何を言っているか自分でもよくわからなくなる始末。

ということで、討論の内容もさることながら、登壇者個々の研究活動が非常に(異常に?)ユニークでおもしろかったため、以下で個人的に気になった登壇者についてまとめておきたいと思います。

石井 裕
– MITメディアラボ副所長

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人間×微生物“をテーマに、主に生物学、ネイチャー、バイオといった分野で活躍されている石井氏。
植物や微生物にある性質や働きを、どうやって工学的に学び実際のプロダクトやデザインに活かすことができるのか、という点を研究対象としています。

キーワードは「BioLogic」。プレゼンでは、気温や湿度により変形する納豆菌の性質を活かしたスポーツウェアが紹介されていました。納豆菌がプリントされた生地部分が、人の体温や汗に反応し反り返り、通気性を高めるというもの。
自然にあるものを、いかに身近な生活に取り入れていくかという視点がとてもユニークで、機械やプログラムコードではなく、植物でも同じ機能を代替できるという可能性に、いくらでも未来が膨らむなーと妄想がはかどりました。

[所属、取り組み]
・MIT Media Lab : https://www.media.mit.edu/

稲見 昌彦
– 東京大学大学院情報理工学系研究科教授

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稲見氏は、人間と機械をインテグレートしていくことで、どう身体を拡張していくかを研究しています。
特におもしろいと感じたのは、その拡張した身体を活かす試みとして超人スポーツ協会を立ち上げた点です。

これは、自在化技術のファーストステップである「超身体」をどう実現していくか、という中から生まれ、人間と機械が一体化した新たなスポーツを開発しながら、その可能性を発信していくとのこと。
昨年、すでに超人スポーツEXPOというイベントが東京未来館で行われ、子供から大人まで大勢の参加者で賑わったようです。その様子は、公式サイトからご覧になれるため、是非覗いてみてください。

[所属、取り組み]
・超人スポーツ協会 : http://superhuman-sports.org/

山中 俊治
– デザインエンジニア/東京大学教授

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乗用車やロボットといったプロダクトデザインを手掛ける一方、”人間×機械”に欠かせない「義体」のデザインも行っている山中氏。
攻殻機動隊のように、美しく洗練された義体をどのように作るかをプレゼンされ、その奥深さや意義に感銘を受けました。

「構造が美しい」「ふるまいが美しい」「人との親和性が高い」といったデザインする上でのポイントや、美しい”機械の”身体が、他者や社会に与える影響について言及。機械や義体といえば、どれほど高性能で人の力を引き出せるか、といった面にフォーカスしがちですが、あえて山中氏は「美」をテーマに追求し、プロダクトの持つ可能性を無限に広げようとしています。
「美」という他の登壇者とは異なる視点で、非常に興味深く印象に残ったプレゼンです。

[所属、取り組み]
Prototyping & Design Laboratory| 東京大学生産技術研究所 山中俊治研究室

福原 志保
– アーティスト、研究者

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福原氏は、「バイオアート」という聞き慣れない分野を開拓し、ハーバード大学医学部やGoogleで研究を行うアーティスト兼研究者です。
何を隠そうこの方が、あの初音ミクの身体をips細胞で創り出したその人であります。「生と死の境界線」生とは何か?死とは何か?をテーマに、それをテクノロジーを用いてアートで表現する活動などをしています。

「身体的に生きている状態の反対は、死ではなく休眠してるだけじゃね?」「生命と非生命の境界はグラデーションで続いている」「死と宣告されても細胞自体はまだ生きていて、ゆるやかにその状態を変えていっている」などなど。生死とは何か?という問いに、ハッとする示唆を与えてくれるプレゼンが非常に新鮮で、人間と機械が交わる未来で新たな生命の定義を考えさせる内容でした。

[所属、取り組み]
・bcl : http://bcl.io/about/
Ghost in the Cell:細胞の中の幽霊(初音ミク) | 金沢21世紀美術館

玉城 絵美
– H2L, Inc.創業者/早稲田大学助教

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他人の人生をハックする」という思いっきりパンチの効いたテーマをたずさえて登壇したのが、若手研究者の玉城氏です。
これまで自分の身体に縛られ、自分の人生しか生きられなかった現状を、他人の身体を借りることで打ち破り、多様な体験から人間性を豊かにしていくことを目指しているそうな。

今回は、その他人の身体を借りる第一段階として、開発を進めている「unlimitedhand」について紹介していました。腕に「unlimitedhand」を巻くことで、筋肉からの電気信号を送受信できるようになり、それを他者の腕とつなぐことで相手の指を動かせるようになる、というもの。
寝たきりの人が家族の身体を借りて自由に動けるようになる、といった可能性もあり、課題は多いかもしれませんが、おもしろい取り組みだと感じました。

[所属、取り組み]
・UnlimitedHand | Touch and Feel the Game World : http://unlimitedhand.com/ja/

落合 陽一
– 筑波大学助教/デジタルネイチャー研究室

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20世紀の遺物である映像をどうやって破壊するか」が落合氏のテーマ。
二次元の画面ではなく3次元空間にアニメーションを投影したり、グラスに注がれた泡にレーザーを当て絵を描くなど、魔法のようなテクノロジーを駆使することで有名です。

従来テレビなどから発せられてきた光(像)や音(周波数)を、テクノロジーの力で制御し、現実の物質的な空間で制御しながら新しいメディアを作っていきたいとのこと。
耳に聴こえない音をプログラミングし、その振動だけでモノを動かしたり浮かしたりと、聞けば確かに理解はできるものの、実際映像で見せられると確かに驚きと高揚感の止まらない未来を感じさせます。

[所属、取り組み]
・Digital Nature Group : http://digitalnature.slis.tsukuba.ac.jp/
・【書籍】魔法の世紀 -〈映像の世紀〉から〈魔法の世紀〉へ

まとめ

普段からテクノロジーには目を向けていたつもりが、今回のイベントでさらなる世界を見せつけられた気がしました。
身体能力・知覚の増強、存在の拡張、他者との接続、義体、生と死の境界、バーチャルへの知覚を伴う没入、人工知能の社会的活用と倫理、テクノロジーとアートの関係性、メディアアートなどなど。
未来を語る上で重要なキーワードが続々と語られ、壇上と客席では全く異なる時間軸に生きる人々のような錯覚さえ覚えました。

自分の知らないを楽しみながら、さらにテクノロジーについて学び、これからの未来を感じていければと思います。