今回紹介する書籍は、世界史を主題にしながら、ウィーンで美術や芸術を学んだ美術史家が著者であるという点がポイントの一冊です。
各所に挿絵があったり、内容自体が「イルゼ」という女性?女の子?に話しかける(語りかける)ように書かれているのもおもしろいところ。
話が物語風に進むため、肩肘張らずに世界史(主に西洋史)を概観でき、ボリューム的にも一気に読めてしまいます。確かに“若い読者のため”というだけあって、難しい言い回しや複雑な時代考証もないため、中高生にもオススメです。
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目次とコンテンツの概要
1 「昔、むかし」
2 偉大な発明者たち
3 ナイル川のほとり
4 日月火水木金土
5 唯一の神
6 誰もが読める文字
7 英雄たちのギリシア
8 けたちがいの戦争
9 小さな国のふたつの小さな都市
10 照らされた者と彼の国
11 大きな民族の偉大な教師
12 偉大なる冒険
13 新しい戦い
14 歴史の破壊者
15 西方世界の支配者
16 よろこばしい知らせ
17 帝政のローマ
18 嵐の時代
19 星夜のはじまり
20 アッラーの神と預言者ムハンマド
21 統治もできる征服者
22 キリスト教の支配者
23 気高く勇敢な騎士
24 騎士の時代の皇帝
上巻では、先史時代〜騎士の時代(13世紀頃)までの西洋史を主に扱っています。東洋に関しては、たまーに孔子や老子、始皇帝についてに触れる程度であまり語られませんでした。
世界史というタイトルはついていますが、東洋もしっかり学びたい人には物足りないかもしれません。西洋史を中心に、歴史の大まかな流れをサクッと知りたい時にはぴったりの作品です。
内容としては、各時代・地域ごとに起こった有名な出来事の発端から結末が、これまで学び切れていなかった背景・事情と共に語られていきます。
特に、メソポタミア周辺のエジプト・近東アジアからはじまり、ギリシアとペルシア、ローマ帝国とキリスト教など、各地で起こった戦争の歴史が鮮明に描かれ、改めて当時が血塗られた戦いの歴史であったことを感じさせます。
また、そうした争いの中で、ヨーロッパ各国はどのように建国されていったのか、ナショナリズム(国民意識)がどのように形成されていったのかが、民族間の違いや宗教の成り立ちも踏まえ非常にわかりやすく説明されています。
ギリシア人とローマ人には、「スポーツを“して”楽しむ」か「スポーツを“観て”楽しむ」かという民族性の違いがあり、大衆に何を与え支持を集めるかという国を統べる上での策略が、そうした面からも見て取れるという点は中々興味深いエピソードです。
互いに影響し影響されながら文明を発達させ、そして崩壊を繰り返す。一進一退ながらも、今に通じる歴史が積み重なっていった事実に圧倒されながら、どんどんその魅力に惹き込まれていきます。
ボリュームは265ページのライト級文庫本
作品自体が物語調であり、さらにボリューム自体も265ページと軽い部類に入るため、通勤時間や週末の半日ほどですぐに読み終えることができます。
教養として世界史を勉強したいけど、中々手につかないという人にはもってこいの書物になるので、気軽に手に取ってみてください。
まとめ
読んでみてわかったことなのですが、この作品自体1935年頃に書かれたようで、作中に1920年代の事が”数年前”の事として語られていました。
今こそ当時を振り返る作品は多いですが、当時からさらに過去を振り返った作品として、その時点でわかっていることのみでこうして物語が描かれたことに不思議な感じがします。
第二次世界大戦前の当時において、人は世界や歴史をどのように見ていたのか。また著者自身が美術史専門の人間として、どのように歴史を認識して振り返っていたのか。それらも同時に知ることの出来る貴重な作品であると思います。
ちなみに、本書前半部分で言及されている紀元前5〜4世紀のギリシア・マケドニア舞台の話は、「ヒストリエ」という漫画でも詳しく描かれています。マケドニア王国のアレクサンドロス大王に仕えたエウメネスの生涯を綴った作品で、本書の内容と非常にマッチし理解も深まるため、是非そちらも参考にしてみてください。