以前、大学教育・経営に携わるNPO法人にいた手前、「大学はどうなるべきか」「未来の教育とは」という話はよく耳にしていました。
ただ、そこを離れ普段何気なく大学関連の情報に触れると、聞いててかなり大雑把で不明瞭なものが多く、特にそれが財界人の発言だったりすると、これじゃ大学と企業の相互理解は深まらなくて当然だよなと。
この前もNEWSPICKSで取り上げられていた大前研一氏の記事を読みましたが、「自分の頭で考えられる人材が必要」「エリート教育の重要性」そしてトドメに「海外の事例」なんかも持ち出すものだから、つい盛大にこの一言。
それ、全部知ってた
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一括りにできないからこそ必要な3つの視点
平成26年度学校基本調査(確定値)を参照すると、昨年5月1日時点で全国にある大学の数は781校となっています。
当たり前のことで至極恐縮ですが、大学は1つや2つのものでなく、各都道府県に1つずつなんてこともありません。全国に800近い大学があり、そのそれぞれで規模から特徴、立地なども含め様々に異なった性質を持っています。
ただ愚痴をこぼすだけなら、「最近の若者は〜」的なノリで大学も一括りにしてしまっていいのでしょうが、そんな居酒屋トークをしたり顔で記事で述べられてもという感じ。
特にこれまでにみてきた「大学とはこうあるべき!」という記事のほとんどは、「グローバル教育」「即戦力人材」「コミュニケーション能力」「起業家精神」など、当たり障りない誰もが知っている単語の並び替えでしかありません。二番煎じどころか何百回煎じているのかと。
知ったかぶって「教育とは」と持論をかざすのでなく、本質的な大学への意見であれば、最低限以下の3点を押さえ、ターゲットを絞った見方をする必要があります。
・どんな大学をモデルとしたものか(国公私、大学規模[主に学生数]、立地、偏差値、文理など)
・大学内部だけの問題か、それとも外部環境含めたものか
・べき論に終始したものか、現実的な解決策の提案なのか
もちろんこの他にも議論によって押さえるべきポイントはありますが、基本的にこの辺が明らかでないと、話が見えてきません。
大学に対する無理解が、漠然とした議論・無意味な提言をさせているのだとすれば、このポイントを押さえておくだけでもかなり違った見方になるはずです。
どんな大学をモデルとしたものか
まず学生数だけをとっても、全学年で6万人を超える大学から2000人ほどしかいない大学まで、その規模には大きな差異が見受けられます。
さらに立地も含め首都圏のマンモス大学か、地方の小中規模大学かと分けることもありますし、そこに国公私立での分類、または偏差値を考慮した分け方になると、その切り口や視点は何十通りにもなります。
特に大規模大学では、内部組織においても複雑な構造となっており、もし学部による独立採算制を採用しているところなら、ひとえに大学改革を掲げても、学内での各派閥・学部に考慮した議論を行わねばなりません。
大学内部だけの問題か、それとも外部環境含めたものか
これもよく議論でごちゃ混ぜになる部分なのですが、大学内部でどうにかなる(完結できる)問題なのか、それとも社会全体がそもそも変わらなければ実現しないものなのかを分ける必要があります。
特に高大接続や就職支援に関してであれば、大学単体でできることは限られてくるため、高校側との協力や企業の受け入れ体制・採用活動にまで踏み込んだ議論が必要になってきます。
大学の成果によって即戦力で優秀な人材を輩出できても、社会でその人材を受け入れ、活躍させられる場が無ければどうしようもありません。
以前、国際教養大学の学生がある商社に就職したものの、企業がその学生を上手く活用できないことから早々に国外のグローバル企業に転職してしまったという例をよく聞きました。
テーマによって、大学単体の問題か、それとも社会の現状を含めたものになるのか分けて考える必要があります。
べき論に終始したものか、現実的な解決策の提案なのか
そもそもですが、個人的に大学のあるべき論なんてものは各大学がそれぞれその立場を勘案して考えればいいと思っているため、画一的な理想像やモデルというものは必要ないと思っています。
ただ最近では、大学をビジネスとして捉え運営している法人も多く、ただ学生を集めることだけに執着した結果、何がしたいのかわからないしょうもない大学が増えてしまったのも事実。
そのせいで、大学は何やっているんだと、外部からの批判や注目が集まり、それがあるべき論の噴出につながっているのかなとも思います。
ただ、実際のところそうした外部の方からのあるべき論より、むしろ組織運営や職員の人材育成などに関する、具体的な組織改革のノウハウや情報を欲している大学は多く存在します。
大学としての方向性は見えている。しかし、それを実現するための組織改革や環境整備が全く進まない。職員はみな公務員感覚で、モチベーションが中々上がらない。教員と職員の関係性を良いものにしたいが、コミュニケーションが上手く取れない、など。
企業でもお馴染みのこうした問題が、実は大学内でも頻繁に起きており、企業側は教育をどうするべきかなんてことより、組織としてどう上手く改革できるかについて言及した方がよっぽど有益だと考えます。
もちろん企業と大学の違いで難しい点もあるかもしれませんが、理想の姿やこうあるべきという意見より、それをいかに実現できるか・実行力ある組織を大学内に増やしていけるかの議論に、より焦点が当たればと思います。