第一次世界大戦後に書かれた貴重な歴史入門書、その下巻。ということで上巻に続きまとめていきます。
下巻では、1935年に書かれた本書の内容に加え、その後50年を経て再版が決まった際に追記されたあとがきも載せられています。
著者がその間に何を経験し、改めて自分の作品を振り返り何を思うのか、赤裸々にそして丁寧に述べられている様は、そこだけ読んでも価値のある一冊です。
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目次とコンテンツの概要
25 新しい都市と市民の誕生
26 新しい時代
27 新しい世界
28 新しい信仰
29 戦う協会
30 おぞましい時代
31 不幸な王としあわせな王
32 その間に東欧で起こったこと
33 ほんとうの新しい時代
34 暴力による革命
35 最後の征服者
36 人間と機械
37 海の向こう
38 ヨーロッパに生まれたふたつの国
39 世界の分配50年後のあとがき ― その間に私が体験したこと、学んだこと
上巻の13世紀騎士の時代に引き続き、下巻では14世紀ドイツやフランスにおける社会環境の変化から第一次世界大戦までの歴史が綴られています。
主要な出来事を取り上げただけあって、ルネサンスやアメリカ大陸の発見、産業革命などの文化的側面から、宗教戦争や三十年戦争、フランス革命、そして第一次世界大戦の様子やその変遷が主なテーマです。
貨幣や市場の登場によって、それまでの商人や騎士の役目が変わり物事の価値観・宗教観も急変する中、僅かなチャンスを掴み出世した者堕落した者、その両者の様が克明に記されています。
新大陸を発見したコロンブスも、はじめは海に出て大陸を発見するという事自体周りから受け入れてもらえなかったようです。実際、航海に出るまで、いくつもの宮廷に出向いたものの笑われ相手にされない中、どうにか王家を説得して、偉業を成し遂げます。
また、フランス国王として72年間在位し続けたルイ14世の後を継いだルイ15世、16世は、前任者の外見や贅沢ばかりをマネする無能な王とされ、市民から絞りとった税金で散財を繰り返します。世の中に啓蒙主義が広がる中、それを知らない王は当然のように市民や貴族、聖職者などから恨みを買い、三部会での基本的人権宣言の後、ギロチンにかけられ処刑されました。
物語の中で、こうした出来事の流れが知っている知識とつながり、毎回なるほどと言っている内にその各時代の要所が自然と頭に入っていきます。
その他第一次世界大戦に関し、それが起こった経緯や当時の状況を以下のように語っています。
問題は、どの国にも欲望にかぎりがないということである。植民地が多ければ、それだけ多くの工場を築き、生活をよくすることができる。多くの製品を生み出せば、いっそう多くの植民地が必要となる。これは、征服欲とか権勢欲ではない。現実が必要としたのだ。
しかし、いまや世界はすでに分配をおえていた。新たな植民地を手に入れるためには、またかつての勢いをうしなった古い隣人からうばいとるためには、戦うか、あるいは少なくとも戦うぞとおどかす必要があった。
富を得て自国を潤すための経済圏の奪い合い、そして支配されないための防衛として当時そうした流れに向かうのは必然だったのかもしれません。特に「現実が必要とした」という言葉に、目には見えない何かに迫られながら歴史という波に飲み込まれていく当時の様子が伺えます。
当事者だった著者だからこそ分かる言葉でもあり、重みのある記述です。
著作当時から50年経った1985年、あとがきとして加えられた巻末にはこのようなことも書いてあります。
この半世紀になされたあの最大の悪行についても、できることなら黙していたい。というのは、結局この本は若者のために書かれたのであり、若者には、もっとも忌むべきことは避けさせてやりたいと思うからです。
しかし子どももいずれは成長するのであり、彼らも歴史から、扇動や非寛容がいかに容易に人間を非人間に変えるかを学ばねばならないのです。
第二次世界大戦をイギリス軍BBCの傍受部として参加した著者が、戦争体験を通じて改めてその恐ろしさやその原因となるものを語っています。
自身の体験から過去の節目を振り返り、そこから何を学び何を伝えていくべきか。あとがきには悩みながらも慎重に言葉を残した形跡を追うことができます。
世界がつながりながらも緊張感を増すこの時代において、歴史とは何か、争いは何を生み出すのかを思い出させてくれる貴重な書籍、歴史資料となっています。
まとめ
歴史とは戦いの記録である、という言葉があるように、世界史というものを振り返ってみると、確かにその通りだと思えるほど争いや戦争の絶えない過去であったことがわかります。
それらを経験したことのない自分には語りえないそうした事実・言葉を、今は本を通して受け取れる。今若者である自分たちが何をしなくてはならないのか本当に考えさせられます。
少しでも歴史に触れ、過去の反省を認識した上で罪悪感にとらわれず、未来に活かしていくことができればと思います。